サピエンス全史

上・下巻あり、回りくどい表現や言い回しが多々あり、読みやすいとは言えない本。

にもかかわらず、一気に読めるのはその脱線ゆえの面白さや著者の博識から来る小話や史観によるものだろう。ただし、歴史や科学的な観点での正確性は疑問。そのため、書評でもフィクションとして読むべき、という声が多い。それでも余りある魅力の著書である。

 

個人的には、上巻の最初の方が面白かった。
以下のようなくだり。

ホモサピエンスネアンデルタール人などと異なったのは「架空」の話を言語を使ってできるようになったこと。そのフィクションで人間はまとまって行動することが可能である。宗教や国家というコミュニティを形成することが可能である。100名以上協力できるようになったこと、これがその他の動物との進化を分けた。

だから、脳という狩猟には不必要な器官をもっている。
この認知革命が起こったこと、がその後のサピエンスの進化を決定的に分けた。
サピエンスは他の動物、生物や人類に対する征圧的な活動、侵略という行動が目立った。

農耕革命。

狩猟から農耕に移行した人間は必ずしも幸福になったわけではない。病気は蔓延したし、争いが起こるようになった。そして自然や気候と戦う気の遠くなるような苦労。

その後、人間は帝国を作り、科学を発達させた。そしてカースト、人種差別を始めた。

 

その他、昆虫の羽は光合成の光を集めるために進化したものが飛べるようになっただとか、という小話も面白かった。

この本の魅力は、マクロ歴史学というが、なんといっても俯瞰的に人類史を見ている点だと思う。他の歴史書に追従を許さないマクロな視座。自分が幽体離脱している感じになる。そのため、心は幸福に、他の国や人との争いを超越した、俯瞰した気持ちになれる。そこが著者の狙いなのかもしれない。このような本を読んで考えるひとが増えれば世界はもっと平和になるのに。そして、俯瞰した目で今後の人類の行く末やビジネスを考えるうえでも有益だと思った。

実際、著者は、人間はいま、環境問題に対してグローバルな統一、帝国として立ち向かおうというさなかだという。

文明の発達と人間の幸福とは関係がないということ。今の人間が過去の人間に比べて幸福だという保証はどこにあるのか。

(抜粋)

私たちが直面している真の疑問は「私たちは何になりたいのか」ではなく、「何を望みたいのか」かもしれない。ホモ・サピエンスは神になった。自分が何を望んでいるかもわからない、不満で無責任な神々ほど危険なものがあるだろうか?

 

人間が力を持つに至ったこと、その力をどう生かすか、ということをこのような本を読んで問いかけながら日々を一日一日過ごしていきたい。